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商品の情報

危機の宰相

危機の宰相

沢木 耕太郎
魁星出版(2006-04)

アマゾン価格: 1,680
 → マーケットプレイス: 727 円 より
定価: 1,680 円
アマゾン売上ランキング: 96494位
単行本 / 通常24時間以内に発送
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[ユーザーによる評価] 平均評価: 5.0 / 総数: 8件

[5点] 「所得倍増」=「戦後最大のコピー」という視点が新鮮
「一瞬の夏」の様なスポーツノンフィクションも、「チェーンスモーキング」の様なエッセイも、もちろん「深夜特急」の様な紀行文もそれぞれ捨てがたいが、硬質な社会派の題材であっても読み手をそらさない点で、沢木耕太郎の右に出る者はいない。他の書き手だと読み通すのが苦痛になりそうなテーマでも、ロマンティシズムが程良く香る著者独自の文体と構成の分かりやすさで、ついつい最後まで読まされてしまう。今回も池田勇人や下村治については名前しか知らず、田村敏雄に至っては全くの初耳だったが、一冊読み終えた今となっては、“グッドルーザー”である三人の生き様がしっかりと心に刻まれてしまった。
それにしても「所得倍増」とは、何とシンプルで力強く、人びとの心に希望を与える言葉だろう。そしてそもそもこの言葉を「戦後最大のコピー」と見なした視点が、私にとって目から鱗であった。 (2008-05-01)
[5点] 昔の「所得倍増」なんて興味ないという人にもおすすめ
大蔵官僚としては敗者である池田勇人、田村敏雄、下村治が中心となり当初誰も信じなかった「所得倍増」を現実化していくという話。三者三様の性質や行動が絡みながら「所得倍増」の中身が明らかになっていく。一時代の話としても面白いですが、一番のお勧めは物事の織り成す様が良く判るという点です。

本書によると「1960年を境にして流行語の性格が大きく変わ」り、「専門的なコピーライターたちが知恵を絞り、巨大なマス・メディアを駆使して流行語化させてしまう」のだそうで、その先駆けが「所得倍増」というコピー。コピーといっても今と比べればまだまだ直球で、仕事熱心な大蔵官僚や、勘と専門性のある政治家が登場します。粘り強く調べた結果を読めるお得な本です。

本書でもエピソードやインタビューなどが豊富です。ただスポーツのノンフィクションと比べると限定されているように感じました。もう死んだ人ばかりだからなのかもしれません。だとしたら、数十年後に歴史になってもならなくてもいいから、政界、官界、財界の人たちに沢山インタビューして欲しいです。例えば最近の「郵政民営化」ひとつを見てもコピーの使い方が更に多目的化しており、規模や意味が違っても今だって当時と同様の事が起きていると思うので。

さて、自分の生まれる前の話なので、60年安保や三島由紀夫も知らないと当時の全貌がつかめず、読み逃した点がありそうです。全貌をつかむのは大変なので、とりあえず下村治がミステリより面白いと言っていたクラウゼヴィッツを読んでみたいです。
(2006-10-22)
[5点] 池田氏の「勘」というもの
この本の意義なり、沢木耕太郎の中の位置づけなりは、たっぷりある本書最後の「あとがき」や「解説」を読んでいただくとして、面白かったのは池田首相が所得倍増という政策方針を打ち出すまでの過程でした。この時代を全く知らない世代からすると日本の高度成長というものはほとんど自然に成し遂げられたものであり、時代の要請が自然に所得倍増を盛り上げ、作っていった、そのときにたまたま池田さんという人が首相だった、というくらいの印象、理解しかもっていませんでした。

しかし、本書を読むと、当時はまだまだ日本のもつ需要の大きさ、潜在的な供給能力を信じられず、各界で慎重な見方の方が支配的だったことがよく分かります。そのとき、池田首相は所得倍増という構想を打ち出し、経済発展の契機を作り、国民の将来への展望を開き、そしてそれを達したのです。

所得倍増の発案は「勘」だったと池田氏は述べているようです。「勘」というものは不思議なもので、常にそのことを考え、考え抜き、あるときその考えの中にふわりと浮かんでくるようなものだと思います。彼は若いころ、とんでもない大病をし、出世街道から外れたルーザーでした。しかし、その影には考え、考え抜いた努力の軌跡がうかがえ、読む人を感動させます。 (2006-10-09)
[4点] 所得倍増にこんな物語が隠れていたとは
池田勇人、下村治、田村敏雄という3人の大蔵省での敗者が織り成す「所得倍増」ストーリー。

吉田茂が舵をきった軽軍備・経済優先路線を国を挙げて実行していた最も象徴的な時代が「所得倍増」の池田内閣時代だったんじゃないかと思います。

政治家、エコノミスト、派閥の事務局長の3人がどういう人生を歩みどういう想いで所得倍増というムーブメントを作っていったのか、非常に克明に記されていて、勉強になりました。

今となっては歴史の1ページですが、当時「所得倍増」という切り口は非常に斬新かつ大胆な打ち手だったんだなあということを理解できました。 (2006-06-05)
[5点] 誰にも期待されなかった男たち
沢木耕太郎という人は「偏愛」の人だと感じる事が多い。彼の心を激しく揺さぶる人物が現われるやいなや、その人物の視線から世界を再構成しようとする欲望を抑えられなくなる。その人物が歴史や周囲の環境から忘れられ、現在の状況が不遇であればあるほど、その人物に対する描写は冷めた鋭さの中で、激しく燃え上がる。その筆遣いからは、その人物を歴史から消去し、忘れ去ろうとするもの達に対する、言葉のテロともいえる鋭い殺意が見え隠れするのだ。かって井上陽水が沢木耕太郎は最高の殺し屋になれると評していたのは彼の仕事に対する完全主義的な手際の良さともに、通常言う意味での「道徳感」の欠如を鋭く見抜いているからだ。正確に言えば、それは欠如というより、道徳より義侠心や美学が優先されてしまうことを感じてのことだろう。彼の書き出す歴史の逆光の中には、義侠心による美学が道徳を超えて大きな輝きを放つことが多いような気がする。そもそもこの本が「魁星出版」という無名の出版社から単行本化されたのも、沢木氏の義侠心の発露に他ならない。沢木氏の歴史系の作品にはアルカイックな叙事詩の持つ歴史のうねりのダイナミックな感覚が充溢している。歴史は反復すると評される。所得倍増論による高度経済成長を掲げる池田内閣に対して、多くの学者やジャーナリストが批判的な立場をとった。しかしその立場が堅持できなるや、今度は「経済成長によるひずみ」論に転移し、自らの言説の責任をとることなく延命した。沢木氏がこうした「口舌の徒」に対する「絶望感」を語るとき、小泉政権の経済政策に批判的だった経済学者やジャーナリストが、経済が好調に転移し始める否や雪崩をうったように「格差社会の弊害」論に転移していく様を重ねてしまう。その醜悪さの反復を、我々もまた沢木氏と同じ「絶望感」を噛み締めながら静かに憎悪するのだ。 (2006-05-24)

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