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商品の情報

赤目四十八瀧心中未遂

赤目四十八瀧心中未遂

車谷 長吉
文藝春秋(2001-02)

アマゾン価格: 470
 → マーケットプレイス: 1 円 より
定価: 470 円
アマゾン売上ランキング: 82808位
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[ユーザーによる評価] 平均評価: 4.5 / 総数: 32件

[5点] 作家の生命線:言葉の生起にいかに敏感でいられるか
別に出版されている著者のエッセイ集を読むかぎり、本書に書かれている内容はまちがいなく著者が体験してきた人生の暗部に想を得たものだといえる。そしてその暗部を彷徨っている間、言葉の生起につねに敏感でいることが己の生を保つ唯一の術だったはずである。それまで「漂流物」にすぎなかった著者が、やがて一人の作家になっていくのはそのような葛藤を通してである。そんなことを考えさせる一節を引用してみたい。

・深い考えもなしに、アヤちゃんのあとをついて歩きはじめ、歩きはじめてから不意に覚えたあの胸騒ぎ。そして、アヤちゃんの姿が見えなくなった時の、あの空虚。あれは人の中に言葉が発生するところに立ち現れるものではないだろうか。
・私はふと「雨は愛のやうなものだ。」という中野重治の詩の一節を思い出した。この年になっても、愛とかいつくしみとか、そんな言ノ葉の内容物はまだ何も知らないのに、こんな他人の言説だけはいっぱい頭に入れているのである。
・あの夜、アヤちゃんが闇の中で私に言うた「起って。」「外して。」「あッ。」「して。」などという言葉は、これらの言葉を言うことによって、アヤちゃんは命を失うかも知れないところで、発語したのだった。(中略)アヤちゃんの言葉はアヤちゃんの存在それ自体が発語した言葉であって、そうであって見れば私の中に残した衝撃の深さは、私の存在を刺し貫くものだった。

「漂流物」だったこの作家にとって、言葉は生死の問題と直結していたのだろう。その現実的な生の感覚が、この作品全体を覆っている。そしてこの現実感が、「働き奴(労働者)」や「辻姫さん(娼婦)」などのような言葉遣いに象徴される本書の神話的な雰囲気と絡み合い、独特の世界観を創り出すことに成功している。
(2007-10-08)
[4点] アンダーグラウンド
とにかく暗いです。
しかも感情移入がしにくいので、
グングン引き込まれるというようなことはありません。
それなのに作者独特の力で読まされました。

アンダーグラウンドぶりたい高校生、大学生ぐらいの子たちには最高の本、かな (2007-09-28)
[4点] 泥のお粥は真実の味
尼に住んでいる人々は、自己の利益を守るためなら簡単に他人を裏切れる人たちだ。そんな泥のお粥をすすって生きてきた人たちは、尼に流れついた漂流物「生島与一」に対してはきわめて懐疑的だ。そもそも、生島が臓物をさばく安アパートの住民たちは、自分たちが仲間同士なんて意識はこれぽっちも持ちあわせていない。お互いのパワーが拮抗してかろうじてバランスをとっているにすぎないのだ。

生島を雇う聖子姉さんをはじめとする尼の人々は、ここでやっていけるかどうか(自分たちのパワーバランスが崩されることがないかどうか)生島をテストにかける。電話BOXからの現金輸送、チャカの預かり、そして赤目四十八滝における心中。その全てのテストにおいて、生島は多分不合格だったにちがいない。尼の住人から見れば、所詮生島も<インテリ崩れのアマちゃん>なのだ。他人に対してかける情けなどまったく持ち合わせていない猛禽類の集まりの中で、世を捨てた食い詰め物・生島は<餌>としても魅力がなかったのだろう。

きわめて作家の私小説に近い本書は、一般中流家庭に対する嫌悪感とコンプレックスに溢れている。安定した生活へと続くレールからわざわざ飛び降りた生島=作家は、心のどこかでドロップアウトしたことを後悔しているのかもしれない。しかし、尼の住人の生活にはウソがないこと、そして安定した中流生活が腐臭を放つ真実に蓋をして成り立っていることに生島=作家は気がついてしまったのだ。中立的な立場にいるからこそわかる真実の誘惑には勝てなかったのである。 (2007-07-19)
[5点] 小説家というより、今は懐かしい「文士」という呼び方が相応しい作家…のような気がする
著者の作品はこれが初めてだったのだが、読み始めると止まらない、というか止めるに止めれない。この作品は著者の体験がもとになっているようだが、作中の『私』の心中は当時の著者とイコールだったのだろうか?そして、どこまでが実体験に基づいているのだろうか?ということを考えながら結局一気に読んでしまった。

言葉使いや漢字、接続詞(例えば「併し」とい接続詞の多用)の使い方も独特である。文体も暗いリズムがある。そして、他のレビュアーが書いているとおり、匂いが感じられる文章である。これが車谷長吉の文章だ!!という主張に満ちている。著者のことは殆ど知らないのだが、今では珍しくなった文体自体が語られる作家なのだろう。

ストーリー自体は新しいものではないが、その文章と人物造形と描写の巧みさ(一般人にとっては異形の者といえそうな登場人物の描写を「巧み」と表現とすることが適切なのかは疑問だが言葉が思い浮かばない)で一気に読ませる。小説を読んだ、という気分にさせる作品である。

下世話だが、現代の作家で、この人の私生活はどうなっているのだろう、と心配しながらもそれを覗いてみたいような人はあまりいないのだが、著者の私生活は一度覗いてみたい。著者には小説家ではなく文士という呼び名のほうが似合うような気がする。

それにしても、何故この作品が芥川賞ではなく直木賞を受賞したのだろうか。不思議である。
(2006-07-07)
[5点] 物語的な面白さ
 「赤目四十八瀧心中未遂」は著者初めての長編小説で、初めての「私小説」ではない小説らしい。
 しかし、主人公には、かなり著者の人生が反映されているようである。
 車谷氏の小説の特徴は、地の文章の中に「買うた」「言うた」などと関西弁の言葉が出てくることである。そのことが、車谷氏の小説に現実感を与えていると思う。
 この小説は「私小説」ではないので、この著者の私小説特有の重苦しさが、少し柔らいでいて、物語的な面白さが感じられる。
 しかし、この小説が「心中」ではなく「心中未遂」なのがこの著者の特徴をよく表していると思う。どう言う意味なのかはこの小説を最後まで読んでください。 (2006-07-02)

赤目四十八瀧心中未遂

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